日本人の高齢化が進み、病院に入院するひとの数も増えることが予想されます。そんな中で病院の管理栄養士は入院している患者さんに食事の提供を行ったり、適切な栄養投与の計画をたてることで治療のサポートをする重要な仕事をしています。
この記事では病院の管理栄養士なりたい人やどんな仕事をしているか知りたい人にむけて、私の実体験をベースに病院管理栄養士のそれぞれの仕事内容についてメリット・デメリットを紹介していきます。
・病院管理栄養士の仕事内容がわかる
・病院管理栄養士がどのように仕事に臨んでいるかがわかる
・病院管理栄養士になりたい人(就職・転職)の参考になる
この記事を書いた人
- 急性期病院の現役管理栄養士
- 1年半委託給食会社勤務、13年半病院籍勤務
- 栄養サポートチーム(NST)業務を運営
- 全国規模、国際規模の学会で発表経験
メリット
栄養指導ができる
病院管理栄養士の中心的な仕事の一つであり、病院管理栄養士を目指す人にとってはの憧れの業務だと思います。
赤ちゃんから高齢者まで、どんな疾患の人に対しても的確な食事指導ができるのはとてもやりがいがあります。患者さんは病気の診断を受けて「好きな物が食べられなくなるんじゃないか」と不安になっている方が多いです。食べ方を工夫したり、食べる量・頻度を調整すれば食べることができることを伝え、食事がストレスにならないように指導する事が大切です。本物の管理栄養士は「病」だけでなく「人」も癒すことができるのだと思います。
ただ、病院の規模によって患者数が少ない場合は栄養指導の件数自体が少なかったり、特定の診療科がない場合はその疾患の指導はほぼありません。もし多種多様な栄養指導をしたい場合は診療科の種類が多い総合病院などを就職先として探すのが良いです。
栄養指導の一番のやりがいは、患者さんに話を聞いて良かったと感謝されることですね!!
栄養指導の際に役立つ書籍もご紹介します。栄養のことをはなす前に、人と対話をする上で心得ておきたいことがわかる書籍です。
人を動かす:栄養指導は相手に「食事内容を変える」という行動を起こしてもらう必要があります。そのためにはどうしたら人が動いてくれるのか理解しておくと栄養指導でも役立ちます。人を動かすためにはどうしたら良いのか、豊富な実例を交えて教えてくれる本です。
Amazonオーディブルでも関連書籍を聞くことができます。本書は実例が多く紹介されており、オーディブルで聴いた方が頭に入りやすいと思います。オーディブルなら移動や家事をしながらインプットすることができます。通常は最初の1ヶ月無料体験ができますが2023年10月3日までに申し込めば2ヶ月無料で体験できます。
2ヶ月無料体験 Amazonオーディブルで人を動かすの関連書籍を聴いてみる塩分早わかり 第5版:食品に含まれる塩分量が写真でわかりやすく載っています。患者さんもわかりやすく、減塩の指導の際は必ずもっておきたい一冊です。
一番かんたん 即やせる!改訂版 糖質量ハンドブック:糖尿病の栄養指導では糖質量がわかるといいです。お菓子などに含まれる糖質量がわかれば食べる量を減らすきっかけになります。
最新改訂版 腎臓病の人のための ひと目でよくわかる食品成分表:気をつけことが多い腎臓病の栄養指導ですが、エネルギー、タンパク質、炭水化物、塩分のほか水分量、カリウム、リンの値も掲載されています。この一冊があれば難解な腎臓病の栄養指導の心強い味方となります。
栄養管理ができる
こちらも病院管理栄養士の中心的な仕事であり、病院管理栄養士を目指す人にとっては憧れの業務です。
入院患者さんの栄養状態をチェックし、栄養が足りているか評価して適切な栄養投与の計画を立てます。
近年では一つの病棟の栄養管理を一人の管理栄養士が行うなど病棟担当制が主流となりつつあります。筆者の努めている病院でも病棟担当制で栄養管理を行っています。病棟担当制では、朝礼終了後に病棟へ行き、基本的には終了時間まで病棟で業務を行います。患者さんと話すのはもちろんですが、病棟で看護師さんから話しかけられることが増えるなど、他職種の方とコミュニケーションをとる機会が増えます。多職種からも頼りにされていると感じられ、とてもやりがいのある業務の一つです。
また、NST(栄養サポートチーム)や早期栄養介入管理加算が新設されるなど、病院における管理栄養士の重要性が高まっています。特にNSTでは管理栄養士がリーダーとなり医師を始めとした職種の人達をまとめて栄養管理を行います。NSTの活動を通して患者さんの状態が良くなっていくのをみると、とてもやりがいが感じられます。
色んな職種の人と協力して患者さんを良くしていく姿がカッコいいですね!!
専門性を追求できる
管理栄養士は食のプロフェッショナルです。医療は日進月歩の分野であるため、新しい知識を学び続ける必要があります。「栄養学の分野を極めたい」「学ぶことが大好き」という人にとってはとてもやりがいを感じられます。
管理栄養士の資格を取得したあとも様々な資格に挑戦することができます。NST専門療法士、病態栄養専門管理栄養士、栄養経営士、糖尿病療養指導士、腎臓病療養指導士などです。基本的には管理栄養士でないと取得できない資格が多いです。糖尿病や腎臓病など自身の興味をもった分野に特化した資格に挑戦することができ、専門性を追及することができます。また、転職の際も募集要項に「糖尿病療養指導士資格保有者優遇」などと書かれている場合もあり、後のキャリアにとってもプラスとなる可能性があります。
病院で働いていると学会発表や論文を書くという機会にも恵まれるかもしれません。学会発表というと、膨大なデータを集めて、難しい統計解析をしてというイメージもありますが、症例検討や自施設で行っている取り組みなどをまとめて発表する事もよくあります。最初は比較的ハードルの低い題材を取り上げるのが良いと思います。慣れないうちは人前で話すのにかなり緊張しますが、慣れてくると人前で話す事が楽しくなってきます。無事終えたはとても大きな達成感を得られます。発表の準備は大変ですが、せっかく病院の管理栄養士になったのなら一度は学会発表をしてみてほしいと思います。
また、学会は北海道から沖縄まで各都道府県で行われます。各施設によると思いますが、自身が発表すれば出張として行くことができます。色々な学会で発表すれば全国各地に行くことができます。ただ、あくまで仕事として行くので、筆者はあまり観光できた記憶はありません笑。
働きながら大学院へ通う人もいます。仕事しながら勉強するのはかなり大変そうですが栄養学を追求したい人は挑戦してみるのも良いと思います。授業などで仕事を休まなければならない場合があるので職場で一定の理解をしてもらう必要性はあるかもしれません。
論文については筆者は投稿したことはありませんが、自分の行った事が形として残り、世の中の人達に見てもらうことができます。学会発表もそうですが、人に物事を伝えるため文章力が磨かれます。
食に関わる事ができる
管理栄養士になる人はやはり食べることが好きな人が多いと感じます。患者さんの食事の献立を考えたり、検食や試食などで仕事として食べることができます。イベントの時には行事食としていつもと違ったメニューを考えるのが楽しいです。
多くの人と話すことができる
患者さんや管理栄養士以外の職種の人と話す事が多くあります。患者さんは会社員、社長、主婦など様々です。中には著名な方もいらっしゃったり、自分と同郷の人がいたりもします。そういった方々から栄養の事以外にも色々な話を聞くことができます。栄養指導の相手は基本的に自分よりも年上の方が多いです。豊富な人生経験があり、時にはこちらが人生について指導してもらうこともあります。人と話すことが好きな人に向いている仕事だと思います。
しかし、中には人と話すことが苦手だというスタッフもいます。そういうスタッフは確かに最初は患者さんと話していてもぎこちないのですが、1.2年栄養指導を続けていくうちに上手に話せるようになっていきます。明るくて今まで人とのコミュニケーションに困ったことがない人よりも、むしろ話すのが苦手な人の方が相手の反応を見たり、相手の気持ちによりそうことが得意な人が多いように感じます。実際、著者も子供のころから人と話すのはあまり得意ではありませんでしたが、現在は大体どんな患者さんに対しても心の余裕をもって話せるようになりました。
話すのが苦手な人の方が管理栄養士に向いているかもしれません。
転職に有利
管理栄養士は国家資格なので一度資格を取得したら転職には基本困りません。私の職場をやめた人も病院や保育園などで管理栄養士として働いている人が多いです。また、中途入職してきた人も保育園などで管理栄養士として働いていた人が多いです。
転職するときは前述した「糖尿病療養指導士」などの資格をもっていた方が有利となることがあります。募集要項に【糖尿病療養指導士資格保有者優遇】のように記載されている場合があります。また、令和2年度の診療報酬改定で早期栄養介入管理加算が新設され、NST40時間研修を修了している管理栄養士が重宝されています。
病院管理栄養士として働くのであればNST40時間研修は積極的に受けた方がいいです。多くの病院で重宝されます。
デメリット
病院の管理栄養士は食のプロフェッショナルであり専門性を磨き続けることができますが、その反面デメリットを感じることもあります。デメリットを理解しておくことで、就職したあと注意した方がよい点を考えられます。ここからはデメリットに感じることを紹介していきます。
医師の指示が必要
栄養指導でも栄養管理でも医師の指示のもと実施しているため、管理栄養士の判断で食事を開始するといったことはできません。栄養管理のプランを実行する際などは、医師に相談し電子カルテで指示を入力してもらう必要があります。管理栄養士が「この栄養剤を使用した方がいい」と思って医師に提案したとしても、医師の治療方針に沿わなければ提案が却下されることもあります。そのため、科学的な根拠を基にした提案やプレゼン能力を磨く必要があります。また、日頃から医師と良好な関係を築いておくことも重要です。
ただし、現在は医師業務のタスクシフト・シェアが進められており、看護師であれば医師の代わりに特定の医療行為を行うといったことが可能となってきています。厚生労働省でタスクシフト・シェアに関する文章がでており、各職種についてその内容が決められています。しかしながら、管理栄養士についてはこの中に含まれていないのが現状です。ただ、近年の診療報酬改定では栄養管理の重要性が高まってきているため今後は管理栄養士もタスクシフト・シェアの対象となるかもしれません。
医師とは仲良くしておきましょう!
やりがいを搾取されることがある
メリットでは専門性が追求できると書きました。そのためには学会発表や論文執筆、研修会などはの参加、発表やその準備などを行うことになります。基本的にこれらは自己研鑽であり、業務時間外で行うことになり給料は発生しません。(業務上必要な研修会などで発表するときは業務として行うこともあります)特に学会発表や論文執筆には多くの時間がかかります。家族や自分の時間を優先したい人にとっては大変です。もちろん強制的にやらされることはありません。嫌ならやらなければよいだけです。
しかしながら、自分が担当している病棟の医師から学会発表などすすめられる事があります。医師からの「発表してほしい圧力」がかかることがあります。筆者もそれで何度か発表しました。ただ、誰かから言われないとなかなか発表する気になれません。何度か発表するうちに慣れてきて準備にかける時間が少なくなっていくのも確かです。それでも嫌なら断り続けるしかありません。断り続けて声をかけられなくなったという人もいます。
学会発表や論文などはかなりレベルアップできますが、時間も労力もかかります。それなりの覚悟をもってとりくみましょう。
ほかの職種と間違えられる
病棟に行ったときに患者さん、医師、看護師からよく薬剤師、リハビリのスタッフと間違えられます。最初に職種と名前を名乗っても患者さんと話している途中で「あなた栄養士だったの⁈」といわれることもあります(笑)患者さんからみたら医療スタッフは皆おなじに見えてしまうようです。
話をはじめる前に職種と名前、何をしにきたのかしっかり伝えることが大切です。病院によりますが、各職種ごとに制服の種類や色を変えたり、ネームバンドの色を変えるなどして区別しています。
自分は管理栄養士であるとしっかりアピールしましょう。
委託会社では給食業務しかできない
管理栄養士が病院で働くためには直接病院に就職するか委託給食会社に就職するという選択肢があります。病院に就職する場合は栄養指導や栄養管理などを行えますが、委託給食会社では給食業務しか行えず業務の幅が狭くなります。
給食業務は患者さんに食事を提供するために欠かせない業務であり、病院で働くすべての管理栄養士にとって重要です。しかし、栄養指導や栄養管理を行いたいという人は病院に就職する必要があります。委託給食会社に就職するメリットは給食業務に強くなることです。給食業務は栄養管理を行う上で核になる部分なので、給食業務をマスターしていた方が良い栄養指導を行うことにつながりますし、転職する際も大きな武器になります。
稀だとは思いますが、病院籍の管理栄養士に欠員がでて、委託給食会社から転籍したという事例もあります。
病院籍でも委託籍でも、患者さんの栄養を良くするという管理栄養士の使命は同じです。
食事がおいしくないと言われる
食事の時間帯には、食事が食べられているか患者さんに訪問して直接話を聞きます。同じ食事を提供しても、美味しいと言ってくれる方もいれば、美味しくないと言う方もいます。中には心ない事をいうひともいてキズつくこともあります。どんな食事を提供しても、体調がよくなかったり、病院という環境、先入観のためか一定数おいしくないと感じてしまうのはある程度仕方のないことだと思います。実際アンケートを行うと、1割程度病院食に不満を感じる人がいます。だからこそ、おいしい食事を提供するために日々管理栄養士と調理師で協力して献立の改善を行っています。
同じ医療従事者でも、患者さんに対して「病院食おいしくないでしょ」と心ないことを言う人もいます。病院食はおいしくないという先入観があるのは理解できますが、あえて医療従事者側から患者さんに対して言うべきことではありません。これに対してはすべての管理栄養士が怒りを感じることだと思います。まずは医療従事者に対しておいしい食事を提供しているということを分かってもらう必要があります。
『病院食はおいしくない』という先入観を『病院食はおいしい』に変えるのが我々病院管理栄養士の使命です!!
まとめ
本記事では病院管理栄養士のメリット・デメリットを実際に病院で働く管理栄養士が解説してきました。
病院管理栄養士は「食」を通して入院したひとを快復に導く重要な仕事です。メリット・デメリットを通して病院管理栄養士の仕事内容を知りたい人、これから病院管理栄養士を目指す人、病院管理栄養士になりたての人に仕事のイメージが伝わればうれしく思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。